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STORY
「いらっしゃいませ○○様!」
「あいにく主人様(あるじさま)は留守なのです」
「お茶をお入れいたしましょう」
今日はナッツのケーキがありますよ」
「 スコーンは先ほどちょうど焼けましたの」
「さあさあティールームへどうぞ」
鳥のさえずり木々のざわめきだけが聞こえる
緑に囲まれた田舎の屋敷の主人を訪ねるも
どうやら不在のようだ
メイドは主人に代わって僕を屋敷に招き入れる
紅茶を淹れスコーンを並べながら
「お知らせいただければお食事も準備しましたのに…」
といつもの決まり文句を言う
いや、近くへ用事があったから寄ってみただけなんだ、と
いつもの定石を置いておく
友人であるここの主人がいつもいないのは知っている
知っていて立ち寄ってしまうのを君たちも知っているんだ
だからいつも
あり合わせのお菓子でのもてなしを受け、
心付けを置いて
また来るよ、君たちの主人に宜しく、と僕は屋敷を出る
「お気をつけて、またのお越しをお待ちしております」
森の中の小さな屋敷。友人の屋敷。
小鳥たちの囀りが絶えない屋敷。
次はいつ訪ねようか ─── 。
ふわっと満ち満ちたあたたかさを胸に、
住処へ戻る僕は浮き足立っていた。
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